事業仕分けと芸術の問題

mixiで書いていた日記をまとめ直して転載します。長いです。
ここのところ盛んにTV等でも扱われていた事業仕分けの話。

これについて文化振興予算を削られることになったというので音楽家が反対声明を出したというニュースが出てました。これが発端。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091207-00000110-jij-soci

おお、これは確かにひどい。目先の収支改善にばかり目が行って未来の文化振興がなおざりにされいてるではないか。

と批判するのは簡単なんですが(実際に記事に対する一般コメントはそんな論調ですね)。

ちょっと興味があったんでソースを色々辿っていくと、
まず今回話題に出ていた範囲(全部ではないです)の事業仕分けの概要がこちら。
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov11kekka/3-5.pdf
結果としては
・芸術家の国際交流
→予算要求の縮減
・伝統文化子ども教室事業
→国の事業として行わない
・学校への芸術家派遣
→国の事業として行わない

ふむふむ、と思って内容を読んでみると、批判の内容としては
・効果が見えない、検証されていない
・国がやるべき事業でない
・財団を経由する必要がない
という意見が主のようです。

「効果が見えない」というところについて、芸術分野で効果を検証するってのも難しいんでしょうが、アーティストの留学支援なんかでいうと支援をもらった人とそうでない人でコンクールの入賞状況を比較したりするのがいいんですかね。これは確かに難しい。
ちょっと時間をかけて調べてみよう。

それより気になったのが
「学校への芸術家派遣」。
これは某友人のいるバンドが今年地方の学校の「芸術鑑賞会」に出張演奏していたんでそういうのが全部なくなるってことかい、と思ったらそういうのでもないらしい。
芸術鑑賞会みたいなものは地方の自治体単位でも予算は組まれていて、それとは別に文化庁が直接やっているものらしい。
で見つけたのがこれ。
http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/chiikibunka/shinkou/sisaku/haken/geijutuka_touroku.html
「優れた活動を行っている芸術家」を派遣しているわけね。
でそれって誰?
ということで派遣された人を見ると
http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/chiikibunka/shinkou/sisaku/haken/pdf/21_hakennzigyou_1.pdf
知らん。誰も分からん。誰だいこれは?

いやでも芸術分野は広いからまあ知らない人もたくさんいるんだろう。
でどうやって選ばれてるわけよ?

と思ったら
「本事業の趣旨にご賛同いただける芸術家の方に広く登録をお願いし」とある。
つまり登録制ってことね。
「プロ」という基準はあるようだけれど、それ以上の基準は見たところ存在していないようです。

ここで思う。
アーティストの立場からすればそれこそハローワークみたいなもんで登録しておけば国のお金で1日3.5万のギャラと交通費(そう書いてある)をもらってパフォーマンスが出来るなら言う事はないでしょう。
でもクォリティはどうやって担保されているの??
勿論こういう派遣で1%でも本当に感動してくれる子供もいるんでしょう。それは否定しません。
でも自治体でなく国が個別の派遣先まで事務調整するような労力の使い方をするのが適切とは僕も思えませんね。

それは「国の事業としてやる必要はない」と批判されても仕方ないのではないだろうか。
そう思うわけです。
所得税の地方配分比率を変えて地元でやってもらった方が交通費も掛からないしもっと小回りの効く展開ができるのではないですか?と。
ここで一つ考えなくてはならないのが地方への財源移譲の問題。
19年度の税制改正で
「国税である所得税の一部を地方税である個人住民税へ移すことになりました。これを税源移譲といい、平成19年度から所得税と住民税の税率が変わります。」
ということで財源も渡すから地方でやれることは地方でやりましょう、という流れが出来ています。
この仕組自体もまだ整理されていませんから某知事が吠えたりとかしていますが。

それはいいとして、こういう財源移譲の流れも踏まえて、文化についても地方がやった方が細やかにできることは地方で扱いましょうよ、という前提のもとに今回の事業仕分けはなされているのは間違いありません。
だからやたら「国が担当すべきではない」という指摘になるんだと思います。

それを「国がやらない」=「文化の衰退」と決めつけるのは良くないと思うわけです。
勿論国が道筋を付けないとうまく行かないこともたくさんあるでしょうから、地方で全部やれというのはこれまたおかしいんですけど。

その上で国は国としてバックアップすべき芸術支援策を考えるべきというのは確かでしょう。
例えば国際的な指揮者の小澤征爾がこの件について実に的確な批判をしています。
以下J-CASTニュースの引用ですが、
『征爾さんが、オーケストラはどれも貧乏で補助金カットは死活問題と訴えたのに対し、小沢幹事長は同意し、政府に伝えることを約束した。征爾さんは、同じ「小沢」姓のためあてにしたという。補助金をもらっている財団、国立劇場に対しては、「音楽が分からない役人がいっぱいいる。それこそ無駄だ」と怒った。』

ドラスティックな予算削減が死活問題になるということへの抗議はごもっともなわけです。
でも事業仕分けの本来の整理対象である財団などへの人や金の流入問題を無視して「文化の衰退」という騒ぎ方をするのは短絡的だと考えます。

じゃあどうすればいいか。
いきなり各都道府県の次年度予算で同様の事業を立てられるとも思えないですしね。
そういう交通整理まで事業仕分けで面倒を見られれば問題ないはずなんですが。
おそらく予算縮小比率を緩やかにして、同時に地方自治体で地元オーケストラへのホールレンタル料を割り引くとかできるサポートから初めて貰うってとこなんでしょうか。

とまあここまで書いて新たな疑問。
事業仕分け資料をよくよく見たんですが、
「学校への芸術家等派遣事業」は確かに仕分け対象と書いてあるものの、反対運動で一番叫ばれている「本物の舞台芸術体験事業」は対象と書いてある部分を僕は見つけられませんでした。

http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/pdf/nov11-pm-shiryo/11.pdf
が該当する資料なんですけどね。
関連する記述としては、学校への芸術家等派遣事業の説明資料で「先行する本物の舞台芸術体験事業と併せ・・・」という表記がある程度でした。
つまり、今回の整理対象はあくまで「学校への芸術家等派遣事業」であって「本物の舞台芸術体験事業」ではないのでは。
今回の事業仕分けでは他の官庁や地方と内容の重複する事業も整理対象の中心になっていますから。
誰か早とちりして反対してるってことはないのかな・・・。
※記述を見つけたんでここは削除します。
というのは、今新たにこの「本物の舞台芸術体験事業」というプロオーケストラの演奏などを子どもたちに見せる企画についての予算が削減される(らしい)ことに対する反対運動が盛んに起こっているようです。
行政刷新会議に反対メールを出そう、みたいなノリでテンプレートが貼られていたり。今日12/15が反対意見の期限日だからなおさら緊迫した雰囲気になっているみたいですね。
この辺り、誰か詳しい人いたら教えてください!!

まず大前提として僕は芸術の振興策は公共からの補助が必要だと思うし、そういう仕組みをなくしてはいけないと思っています。
ただ、それを全部国がやるべきかと言われるとそれも違うと思っています。
例えば愛知県の学校へどんなオーケストラの公演をどういう日程で提供するのか、学校が基本的に地方自治体の仕切りで管理されているのに、事務処理等を含めそれを国が財団を通して管理するのが本当に効率的でしょうか。

ちなみに今回予算削減の対象となっているのは「文化庁の地域文化振興施策」と言われるものの一部です。
ここで注目するべきは「地域文化」という言葉ですね。
つまり「地域」の問題を文化庁が全部仕切ろうとして、しかもそれを天下り団体を通してやったりすると金の無駄遣いになる部分がたくさんあるでしょう。効果もちゃんと検証できないでしょうと。
まあそういうことだと思います。
それで前述の財源移譲の問題に関わってくるわけです。

・・・と思って書いていたら、ありました!!
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov11kekka/3-4.pdf
「本物の舞台芸術体験事業」についての事業仕分け。
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/pdf/nov11-pm-shiryo/10.pdf
こちらにある「子どものための優れた舞台芸術体験事業」がそれのようです。
で、指摘コメントは以下の通り(一部抜粋)。
●国が行う事業と独法を経由する事業を、「地方に仕分ける事業」と「国が行う事業」とにまず仕分け、効果がどれくらい見込まれるかという試算の基に縮減すべき。2つの運営財団は廃止して独法に戻す。
●子どものための優れた舞台芸術体験事業は廃止。新国立劇場とおきなわ国立劇場の契約は見直し。
●新国立劇場運営財団は廃止。地域の芸術拠点形成、子どものための優れた舞台芸術体験事業は自治体で実施すべき。マッチングは文化庁か民間でも可。
●寄付が伸びるような文化政策の動機付けが見えない。いかに芸術文化といえども数百億円の国費を投入する以上、いつの時点で投入額をゼロにできるのか、見通しを示せなければ厳しい評価をせざるを得ない。
●寄付を集める仕組み作りの努力が不足している。国が補助するというのは知識不足。そもそも文化振興は国の責務か、民間中心で行うか、議論が必要。
●寄付を増やすような政策体系を考えるべき。
●文化の振興という数値では図れない事業の必要性は否定しないが、効果説明が不足でばらまきの批判をおさえられるものではない。
●芸術・文化に国がどう税を投資するか明確な説明がなされない。縮減やむなし。
●国が子どものためだけに事業をすることは必然性に欠ける。中心は地域での取り組み。
●芸術創造・地域文化振興事業と子どものための優れた舞台芸術体験事業は地方へ。

話は大体分かりますが、的を射ていないと思うのは寄付に関する記述。
欧米のキリスト教バックグランドをベースにした寄付の文化というものが日本にはほとんどありませんね。また寄付に関する税制優遇の仕組みも行き渡っていません。
そういう状況で次年度からいきなり「圧倒的に予算を縮減したい」とされても成立しないでしょうと。小澤さんが言っているのもここでしょうね。

これらの議論をうまく整理されているブログもありました。
http://ayasegawa.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-ecfb.html
バレエをやっている方の記事ですが。
端的に知りたい方はこちらの方がいいかも。
ただこの記事の
「国や自治体の予算というのは、基本的に「採算が取れないけれど必要なこと」のために使われるべきものなんです。そのために税金というものを徴収しているんです。」
という部分については更に議論が必要ですね。
「採算が取れない事業」にどんどん予算をつぎ込んでいった結果、国債発行額が何十兆円に膨れ上がってしまっているわけですから。
それで「聖域なき」事業仕分けが行われたという経緯があるんで、芸術の必要性を訴えるなら感情的な反論は避けるべきでしょう。

とまあ長すぎるのでここまでで一旦区切ります。続きはまた夜にでも・・・。

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